買い戻した分と同程度の株式を新たに交付・発行すれば、株式数はほとんど減りません。自社株買いへの支出額だけでは、残る株主の持分の変化は分かりません。
自社株買いを続けているのに、株式数があまり減っていない会社があります。買い付けが実行されていないとは限りません。従業員への株式報酬や新株発行によって、減った分と同程度の株式が増えている可能性があるためです。
自社株買いに使った金額と、株式数の純減は別の情報です。前者は支出額、後者は残る株主の持分を計算する分母の変化を示します。
取得枠と実際の買い付けを分ける
取締役会が決めた取得枠は、その金額をすでに使ったという意味ではありません。一定期間に取得できる上限を定めている場合があります。
実際に同じ金額を使っても、買い付け価格が高ければ取得できる株数は少なくなります。取得枠、実際の支出額、取得株数を区別する必要があります。
この記事で比較するのは、会社が保有する自己株式を除いた株式数です。自己株式を含む発行済株式総数や、大株主の保有分なども除く浮動株数とは異なります。期首と期末で同じ定義の数字を使うことが前提です。
株式報酬で増える分がある
会社は従業員への報酬として新株を発行することも、保有する自己株式を交付することもあります。いずれも社外の株主が持つ株式数を増やす方向に働きます。
例えばマイクロソフトは2025年の年次報告書で、株式報酬の権利確定時に新たな普通株式を発行すると説明しています。自社株買いの開示だけでは、この増加分を把握できません。
買い戻した株数と、新たに交付した株数がほぼ同じなら、期末の株式数はあまり変わりません。その場合の買い戻しは、既存株主の持分比率を高めるより、持分が薄まる「希薄化」を相殺する役割を果たしています。ただし、株式数が横ばいというだけで株式報酬が原因だとは断定できません。買収対価としての株式発行なども確認が必要です。
EPSに使う株数は期末株数ではない
基本的1株当たり利益(EPS)の分母は、通常、その期間の加重平均株式数です。四半期末の株式数をそのまま使うわけではありません。期末近くに買い戻した株式は、平均に反映される期間が短くなります。
希薄化後EPSでは、一定の条件を満たすストックオプションなどの潜在株式も考慮します。このため、期末株数が減っていても、EPSの計算に使う株数が同じようには減らない場合があります。
| 開示項目 | 分かること |
|---|---|
| 実際の取得額と取得株数 | いくら使い、何株を買い戻したか |
| 期首・期末の自己株式を除く株式数と発行・交付の明細 | 増加と減少を合わせた純変動 |
| 基本的・希薄化後EPSの加重平均株式数 | その期間の1株利益に使った分母 |
利益総額が変わらなくても、EPSの分母が小さくなれば1株利益は増えます。EPSの伸びが事業の利益増加によるものか、株式数の減少によるものかは別の問いです。買い戻し額、株式数の純変動、会社全体の利益を分けて見ると、混同を避けられます。
