2026年7月10日、SKハイニックスの米国預託証券がナスダックで取引を開始しました。公募価格は1 ADS当たり149ドル、発行数は1億7,790万ADSです。手数料などを差し引く前の調達額は約265億ドルになります。
ただし、この149ドルを韓国市場の普通株1株とそのまま比べることはできません。SKハイニックスの1 ADSが表すのは、韓国上場の普通株0.1株だからです。
ADRを買うことは、米国の別会社を買うことではない
ADRはAmerican Depositary Receiptの略で、日本語では米国預託証券と呼ばれます。外国企業の株式をもとに、米国の預託銀行が米国市場で取引できる証券を発行する仕組みです。
投資家はドル建てで米国市場から売買できますが、経済的な価値は本国に上場している企業の株式につながっています。
SECの開示では、今回実際に取引される単位をADSと表記しています。ADRはその権利を示す預託証券です。市場では両方をまとめてADRと呼ぶことも少なくありません。
SKハイニックスの預託銀行はCitibankです。ナスダックでADSを買っても、米国に新しくできたSKハイニックス子会社の株主になるわけではありません。韓国上場のSKハイニックス普通株に連動する権利を保有します。
10 ADSで韓国上場の普通株1株に相当
SECの登録書類に記載された比率は次のとおりです。
したがって、公募価格149ドルは普通株1株分ではなく、0.1株分の価格です。
公募価格の換算に使われた1ドル=1,509.9ウォンを当てはめると、次の金額になります。
| 計算 | 金額 |
|---|---|
| 1 ADSの公募価格 | 149ドル |
| 1 ADSのウォン換算 | 約22万4,975ウォン |
| 10 ADS | 1,490ドル |
| 普通株1株相当 | 約224万9,751ウォン |
米国上場のSKハイニックスADSが韓国株より極端に安く見えたなら、10対1の比率を入れずに比べている可能性があります。
ADRの価格は韓国株と為替の両方に左右される
同じ会社の持分を表すため、ADSと韓国普通株の価格が長期にわたって無関係に動き続けることは考えにくいでしょう。単純な換算式は次のようになります。
実際には、常に同じ価格になるわけではありません。韓国と米国では取引時間が異なり、投資家の需給や流動性にも差があります。為替レートも動きます。
米国のADSが上昇しても、翌日の韓国株が必ず同じ割合で上がるとは限りません。両者はつながっていますが、為替、取引時間、市場心理を通して価格が形成されます。
上場初日には、発行前取引を示す一時的なコードSKHYVと、通常取引のコードSKNYが確認されました。証券会社の画面では移行時期によって表示が異なる可能性があります。
今回は新株発行で約265億ドルを調達
ADRを上場しても、必ず企業に新しい資金が入るとは限りません。既存株を預託して米国での取引手段だけを設ける方法もあります。
今回のSKハイニックスは新株を発行する公募です。韓国普通株1,779万株を新たに発行し、それを1億7,790万ADSに分けて販売します。
| 項目 | 規模 |
|---|---|
| 新たに発行する韓国普通株 | 1,779万株 |
| 米国で販売するADS | 1億7,790万ADS |
| 1 ADS当たりの公募価格 | 149ドル |
| 公募総額 | 約265億710万ドル |
SKハイニックスは、調達資金を龍仁の半導体クラスター、清州の先端パッケージング工場、生産設備などに使う計画です。既存株主が保有株を売るのではなく会社が新株を発行するため、費用を差し引いた資金は会社に入ります。
既存株主の持分は約2.45%希薄化する
会社が新しい資金を得る一方で、発行済み株式数は増えます。その分、既存株主の持分比率は下がります。
SEC資料にある2026年3月末の普通株7億829万7,021株に、新株1,779万株を加えて計算します。
| 区分 | 普通株数 |
|---|---|
| 既存の普通株 | 708,297,021株 |
| 新たに発行する普通株 | 17,790,000株 |
| 発行後の合計 | 726,087,021株 |
既存株主の持分比率は、発行前の約97.55%に低下します。希薄化率は約2.45%です。
ほかに株式数の変化がないと仮定すると、発行前に1%だった持分は約0.9755%になります。ただし、希薄化率と同じ割合だけ株価が下がるとは限りません。調達した資金から将来どれだけ利益とキャッシュフローを生み出せるかが重要です。
韓国株と米国ADSで異なる点
同じ会社につながる証券でも、投資家が利用する条件は異なります。
| 項目 | 韓国普通株 | 米国ADS |
|---|---|---|
| 取引通貨 | ウォン | ドル |
| 市場 | 韓国取引所 | ナスダック |
| 単位 | 普通株1株 | 1 ADSが普通株0.1株 |
| 配当 | 韓国での支払い | 預託銀行を通じて換算・支払い |
| 議決権 | 株主が直接行使 | 預託銀行を通じて指示 |
| 費用 | 韓国市場の取引費用 | 預託手数料や為替費用がかかる場合がある |
米国の投資家にとっては、ドルで取引でき、米国の証券口座から買えることが利点です。一方で、為替、預託手数料、配当の換算、議決権の伝達方法も確認する必要があります。
ナスダック上場だけで株価が上がるわけではない
米国上場によって世界の投資家がアクセスしやすくなり、SKハイニックスは大規模な資金を確保できます。しかし、ADRになっただけで売上高や利益がすぐに増えるわけではありません。
今回の資金の動きは明確です。約265億ドルの資金が入る一方、既存株主の持分には約2.45%の希薄化が生じます。今後の価値は、この資金をHBMやメモリーの生産能力拡大にどう生かすかで決まります。
この記事は、SKハイニックスの普通株やADSの売買を勧めるものではありません。ADRの仕組みと新株発行が会社と株主のお金にどのような変化をもたらすかを説明するものです。
確認した資料
- SKハイニックスのナスダックADR上場式典 - ナスダックのオープニングベルイベント - SEC SK hynix Form F-1/A - SEC SK hynix Form 8-A - SECによるADRの説明 - 公募と上場の詳細
